連載

頬杖日誌

彼は思いのほか読書に没頭しているらしく、松葉杖の音にも、勿論それよりも曖昧な私の「気配」にも全く気づいていない御様子。さびしいな。少しだけ、驚かしてやろうかな。いいや、やっぱり止めておこう。私がこうした悪戯を試みたときはいつだって失敗しち…

頬杖日誌

「○○さん。ご家族の方が面会にこられてますよ」看護婦さんにお爺が呼ばれる。お爺が頬を少しばかり憂色を帯びた薄紅色に染めながら、「それじゃあな。続きはまたあとで話してあげよう」とおっしゃったので、「ええ、楽しみにしてますわ」と、持ちうる表情の…

頬杖日誌

今朝の朝食は、プレーンオムレツと二枚の薄いハム、主菜はバターロールが二つで、付け合わせは蜜柑とレーズンの入った白菜サラダだった。病院食は薄味で美味しくないという人が多いらしいが、実際は質素で優しい味付けなだけで、いつもお家で食べている朝食…

頬杖日誌

ふっ、と目を覚ます。本当に「ふっ、と」と形容するのが相応しいような、自然で、清涼とした目覚めだった。いつもの、所謂「朝の忙しさ」というやつに否応無しに起こされるわけではなくて、また、変な夢を見て、そいつから引き剥がされるようにして起こされ…