頬杖日誌

今朝の朝食は、プレーンオムレツと二枚の薄いハム、主菜はバターロールが二つで、付け合わせは蜜柑とレーズンの入った白菜サラダだった。
病院食は薄味で美味しくないという人が多いらしいが、実際は質素で優しい味付けなだけで、いつもお家で食べている朝食と比べると、私の舌には寧ろこっちの方が合っているとさえ思えた。
お母さんは毎日朝からちゃんとした料理を作ってくれるのだけれども、お家の食事はどうにもくどくて嫌になる。ごめんなさい、お母さん。

朝食を済ましてから、ゴテゴテとした表紙のゴシップ雑誌を読み耽る。有名人の醜聞は、どれもこれも下劣で世俗的な色合いが強すぎるから嫌いだ。美談だって同じ。どうして人のプライベートを切り売りして喧伝するのだろう。そんなものは、ズボンのポケットにそっとしまっておいて、気の知れた人にだけこっそりお話すればいいのだ。どうして、姉はわざわざこんなものを差し入れてくれたのだろう。

私の隣のベッドに寝ている白髪のお爺さん。なんでも肺を患っているらしく、私が交通事故で足を怪我した随分前から入院していらっしゃる。
お爺が私に話をしてくれるときはきまって、憂愁を帯びた儚げな目をきらきら輝せて、皺だらけの頬を緩ませながら、嬉しそうとも悲しそうともつかない語調でもって語ってくれる。きっとこのお爺は、私の事を気に入ってくれてるのだわ。
お見舞いにきてくれた家族の話(なんでも、長女は優しいから率先して世話をしてくれて、末っ子の長男は反対につっけんどんなんだとか。)、遠く離れた都会に私と同じくくらいの年の孫がいる話(とても世話焼きで私によく似た性格らしい)、果ては笑っちゃうくらい昔の武勇伝まで。

「それでな……」
お爺が話頭を転じかけたとき、ふと思った。
見知らぬ人にお話するような事って、こういう風に素朴で、素敵な内容であるべきじゃないのかしら。