続き物 その1

阪神電車、大阪難波駅スターバックスコーヒーを横切り、24番出口の階段を駆け上がる。

だんだんと構内のけたたましい音が遠くなり、18時の陽光が斜め上から網膜へと、容赦無く照射される。

光と音に少しだけ疎ましさを感じながら、携帯を取り出す。待ち合わせ時間5分遅れを確認し、いつもの場所へと向かう。
 
私は、待ち合わせ相手の男を見つける。
少しだけ不恰好ではあったが、華奢な身体を流行のファッションで飾った、今時の、普通の男だ。
男は、執拗に時計を確認していた。
 
「こんにちは」感情を読み取られないよう、いつもの手慣れた無表情で私は言う。
「やぁ」憂色を浮かべ、あからさまに不機嫌そうだった男の顔が、一瞬にして綻ぶ。
「…今日は、わかってるよね?」
「うん」
男は少し興奮したような語勢で話す。私は、気付かれないよう舌打ちした後に、呼応する。
 
 男が足を早め、催促しながら先導する。
今日向かうのはいつものラブホテルではなく、男の自宅。
けれど、先にお金を受け取る事は変わらない。どっちみち、それ以外はどうだっていい。
 
心斎橋筋を2、3外れた裏通りに、男の住処はあった。
男と同じ様に、とりたてて特徴もない、一般的なアパートだった。男は、待ちきれない様子で鍵を開け、私を部屋へと招き入れる。
草臥れた3枚の万札を受け取った後、男にシャワーを浴びるよう催促し、TV、ソファー、ポスター、箪笥、人形……部屋の全てを値踏みする。
余計な時間は過ごしたくない。自分の身体は、予め洗ってきた。
 
風呂場からでてきた男が、開口一番に予想外の事を訊いてくる。
「ハーブって、吸った事ある?」
「ないよ」ほんの少し吃驚したが、私は、冷めた表情を崩さずに即答する。
男は、続けて提案する「よかったら、やってみない?」