続き物 その2
「うーん……」私の思案を遮るように、男が興奮気味に続ける。
「すごい気持ちいいからさ!それに、ほら、いつだかいってたじゃん。『自分の体をなるだけ汚したいんだ』って」
脱法ハーブについての知識は、友人から聞き齧った程度で、一知半解な状態だったが、そんな事はどうだっていい。
私は、薬物に対するイメージに慄然とする事もなく、男の目論見を邪推してみても、薄目で伏せた表情を崩すまでには至らなかった。
「で、こうやって10秒くらい肺に溜めて吐き出すんだ。タバコをふかすのとおんなじ。って、タバコ吸わないんだっけ?」
私の小さな嘘すらずっと見抜ずにいる、間抜けな男が見本を見せる。
「一分くらいで効き目がでるよ」
成る程。男の言葉通り、吸い込んでから少し経った後に実感する。
足は地上から離れ、目は見開き、増幅された刺激を受容する。全身の皮膚に、微弱な電流が走る。
普段と違う身体で、普段の思考回路のままの私は、手早く下着を脱ぐ。
男は少し虚ろな容態だったが、私の行動を視認するなり、私にそっと口付けする。
そして、いつにも増して、執拗に私の身体を愛撫する。耳、口、首すじ、乳房、そして陰部……
数日ぶりの餌にありついた犬のように、自らの吐息にも、涎にも頓着せず、執拗に、なんども舐めずる。
ハーブの効能の所為か、自然と表情が強張り、何故だか泣きそうになってしまう。
「そろそろかな」男は確認し、私の身体の中に深く侵入し、数多の不純物で澱んだ私の内部を、何度も攪拌する。
心地の良い痺れと浮遊感に満たされ、不本意にも嬌声を漏らしてしまう。
男の顔が歪み、気味の悪い表情を見せる。
私は、男を眺めていた。
今しがた、独りよがりな欲求を発散したばかりの男を。
普段の私ならば、何も感じず、冷めた表情のまま即座に帰ろうとしていただろう。
「もう帰る?」男が問いかける。
「終電には、間に合うからさ、ちょっとだけ話がしたいんだ……」
……言いたかった言葉を飲み込んで、首を縦に振る。
新しい身体を手に入れた代償として甘受した寂しさを、人恋しさを紛らわしたかった。けれど、不器用な私は、身体を重ねる他にその方法を知らない。
玄関においてあった、小さな少女の人形を一瞥する。人形は、何か言いたげな視線で私を見つめる。
再び視線を外した私は、男のアパートをひとり後にし、一雫だけ涙をこぼした。