星の王子様

先ほどから何度も執拗に確認していた時計が、ようやくこの退屈で長ったらしい懲役期間の終わりを告げる。店長からの一言で、私は正式に釈放される。
タイムカードを素早く切り、制服から普段着へと着替えた私の心模様は、この後の予定とは裏腹に仄暗いものだった。

一歩外にでると、途端に夜の寒風が私の身体を芯から冷やす。

街中にいた人達は、自分とはまったく別種の動物のように思えた。
大きな笑い声をあげて、能天気な幸せを共有し合う若者たち。肩がぶつかっても反応もせずに通り過ぎる中年。泣き喚き、駄々を捏ねる小さな子ども。それをあやす若い母親……

みんなが私に無関心だ。
当たり前の事なのに、ダメな私にとってはそれがどうにも寂しい。ううん、考えるだけ無駄なことだ。私は反芻する。
綯い交ぜになった感情のループを振り切ろうと、一生懸命目的を思い出し歩みを早めるが、どうにもうまく前向きになれない。

けれどその甲斐もあって、私の身体だけはいつの間にか目的地に辿り着いていた。
付き合い始めて数ヶ月の彼の、小さな家。そのすぐ前に佇む公園。いつもの待ち合わせ場所だった。

ベンチに腰掛け、彼に電話をかける。人影が疎らになってくれたおかげで、どうにか無意味な疎外感が和らぐ。
けれど、今度は本当に一人っきりの時間だ。待ちぼうけする対する不安がこみ上げてくる。このダメな癖も、いつまで経っても矯正できない。

しかしそれも今日に限っては杞憂だったようだ。電話越しの声を聞くまでもなく目の前の灯りが消え、彼が忙しない姿を見せてくれた。

小走りで私の元へと駆け寄るなり、息を切らしながら無邪気な表情で提案する。星を見に行こうよ。
その言葉は彼の表情にあまりにもお似合いで、驚きと笑みがこぼれてしまう。

ダメな私の甘ったるい恋。ありきたりな幸せだけが、子供のような私を救ってくれる。