艶笑滑稽譚

私は、バーなどという小洒落た店で飲むのはこれが初めてでした。そもそも、普段から酒など殆ど嗜んでいないのですから。
いつもなら仕事を終えたあとは真っ直ぐ家へ帰り、風呂に入り、飯を食べて、それからすぐに就寝してしまうわけです。

とっても高そうな酒が幾つも並んでいます。ボーッと眺めていると、Kがとりあえず、と注文しました。「俺はウィスキー。こいつには……なんか飲みやすいカクテル作ったげて」
どうやらKはこの店の常連で、マスターとも顔馴染みらしい様子です。

「しかしホント面白い思いつきだね。あっ、一本吸う?」タバコを取りだします。
そらもう、これから火遊びを覚えるわけですから、タバコくらいは嗜んでおかないと。妙に滑稽な手つきで吸ってみせます。ゲホッ!ゲホッ!うわっ、むせ返ってしまいました。
それを見たKは、涙を浮かべながら一人大笑い。仕方ないでしょう、「これから」覚えるわけですから。

「あー、面白い。もう、最高」
「それより、お酒を飲んで、それで、次はどうすれば?」
「カシスオレンジ」を飲みながら、Kに訊きます。あら、甘くて、中々の飲み易さです。
「そーいうとこだよね(笑)まぁ、もうちょっとしたら馴染みの女のコたちがくるんだよ。今から楽しみだろ?(笑)」

女の子……
二十三年、ずっと真面目に生きてきたわけですから、といっては言い訳にもならないかも知れないですが、私には殆ど無縁でした。挨拶や事務的な会話の他に、気の利いた話なんてできる筈もありません。
それを知ってか知らずか、Kが言います。「とりあえず今のうちに酔っとけよ」
こくと頷き、カシスオレンジをぐいっと一気飲みしてしまいます。

Kのいう「馴染み」の女の子達がきたのは、それから二十分程経っての事でした。