夏希

ベランダの柵に身を乗り出し、夏を眺めていた。背の高いビルをてらてらと照らす炎のような夕焼け。生暖かい風に揺れる緑黄の木々の葉。道を行き交う浴衣姿の人たち。茹だるような三十五度に汗を垂らしながら、それらの光景を眺めていた。

夏は私が生まれた季節。まだ小さな頃、空を仰いでぐんぐん伸びる向日葵が好きで、毎年この季節になるのが楽しみで仕方がなかった。
大人になってからもそれは変わらなくて、浮かれて海にでかけたり、何処かの河川敷で綺麗な花火に目を輝かせたり、毎夏楽しい思い出を重ねてきた。

それが今年はどうだろうか、そんな思い出を作る事はもはや叶わず、気づけば、毎晩身体を売る為だけに外出する日々を送っていた。唯々憂うべき藍色の夏休み。枯れて黒ずんだ向日葵。

数ヶ月前に「嫌気がさした」という身勝手な理由で仕事を辞めてしまった事が堕落の始まりだった。
その後ろめたさからだろうか、友人達ともすっかり疎遠になってしまって、その寂しさを紛らす為に手を出した援助交際。けれど会う人は皆お金以外何もくれなかった。

財布に汚いお金が増える度に、少しずつ全うな人間から遠ざかってしまう。
心の充実が、夏への希望が、また一つ泡沫のように消え失せてしまう。

この夏が終わったら死のう。今ではそんな事をずっと考えている。

夏は私が生まれた季節。
私はベランダにしゃがんで、子どものように泣きじゃくった。